研究開発プログラム

本文

虐待など意図的傷害予防のための情報収集技術及び活用技術

山中 龍宏(独立行政法人産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センター傷害予防工学研究チーム チーム長)

プロジェクトトピックス

平成22年7月16日

  • 7月15日放送のNHK「おはよう日本」でプロジェクトの取組みが紹介されました。
    特集「幼い命を “科学” で救え ~虐待を見分ける現場の模索~」NEW

平成22年2月10日

  • 2月5日にプロジェクトの取組みがNHKワールドで放映されました。

平成21年7月10日

  • 毎日新聞にプロジェクトの紹介記事が掲載されました。

概要

山中 龍宏

本プロジェクトでは、虐待など意図的な傷害を発見するために不慮の傷害と見分ける科学的方法を確立し、意図的な傷害を予防するための医療機関・児童相談所などの現場で活用できる予防技術を開発する。まず、救急医療や法医学教室などの医療機関を中心に重軽傷のみならず死亡事例の傷害情報を収集する体制を構築し、さらに、科学的な分析を可能とする情報蓄積ソフトウェアを開発することで、傷害データを蓄積する。次に、収集された傷害データを分析することで、従来、経験に基づいて判断し行動してきた、子どもと接する現場スタッフに意図的傷害かどうかを判断するための診断支援ツールを提供し、現場での運用により有効性を検証する。

プロジェクトで取り上げる社会問題の現状や背景・社会的ニーズ

近年、乳幼児が受ける虐待などの意図的な傷害(intentional injury)が社会問題になっている。児童虐待相談の件数は年々増加しており、平成18年度の相談件数37,323件は10年前の平成8年度の約9倍にものぼっている。意図的な傷害の予防を難しくさせている第一の理由は、意図的な傷害の発見の難しさである。意図的な傷害の多くは、不慮の傷害と見かけ上類似しており、判別が困難であることが多い。現在、意図的な傷害と不慮の傷害の判別法は、医師や看護師の経験や勘に基づいた判断のみであり、科学的な判断基準が存在しないことが意図的な傷害の発見と対策を阻害する原因となっており、科学的な基準の確立や、判断を支援するツールの開発が急務となっている。

このプロジェクトで目指す成果とその対象

  1. 意図的傷害と不慮の事故の傷害情報のデータベース
    他のプロジェクト(JST CREST)で開発した身体地図情報機能を持つ傷害サーベイランスシステムを拡張し、新たに頭部傷害、歯科外傷、法医学教室の司法解剖事例のデータ(臓器に関するデータやCTスキャンデータを含む)、児童相談所のデータなどを記録可能にする。開発システムを用いて、重軽傷の傷害情報だけでなく、頭部傷害、法医学教室の司法解剖事例のデータを蓄積し、次で述べる頭部傷害の生体力学的シミュレーション技術や、意図的傷害と不慮の事故による傷害を識別する虐待診断ソフトウェアの基礎データとして利用する。
  2. 傷害の生体力学的シミュレーション技術
    医療機関で収集された頭部傷害の詳細データや、法医学教室で司法解剖した事例のデータをもとにして傷害発生のプロセスを再現したり、転落状況の情報から傷害発生の有無を診断したりすることを可能にする生体力学的シミュレーション技術を開発する。開発したシミュレーション技術は、次で述べる意図的傷害診断支援ソフトウェアの基礎技術として用いたり、虐待事件が疑われる警察の捜査の技術協力に応用する。
  3. 因果構造分析にもとづく意図的傷害診断支援ソフトウェア
    医療機関などで蓄積された傷害データベースを、確率的因果分析技術を用いて解析を行うことで、児童相談所や医療機関において意図的傷害の診断を支援してくれるソフトウェアを開発する。このソフトウェアは、児童相談所や医療機関の担当者が傷害の情報や状況を聞き取って入力すると、虐待による典型的な傷害かどうか?転落事故から起こりうる傷害かとうか?などの判断を支援してくれるものである。開発ソフトウェアは、実際の児童相談所や医療機関における運用により有用性を検証する。

科学的手法・知見の活用・創出

子どもの虐待の問題は、大きな社会問題である。本プロジェクトでは、虐待と不慮の傷害の科学的な判別法を確立するために、その基礎となる傷害データの蓄積、傷害データに基づく生体シミュレーション技術の開発、傷害データと生体シミュレーション技術と確率論的因果構造分析技術に基づく虐待診断支援技術の開発を行う。

問題解決に取り組む現場の人々と研究者の協働による研究開発の進め方

意図的傷害と不慮の事故の傷害情報のデータベース

  1. 国立成育医療センター
  2. 千葉大学法医学教室
  3. 長崎大学病院
  4. 大阪医療センター
  5. 産業技術総合研究所
  1. 傷害データ全般
  2. 司法解剖データ、Aiデータ
  3. 歯科外傷データ
  4. 頭部傷害 詳細データ
  5. 傷害データの蓄積ソフトウェアの開発

傷害の生体力学的シミュレーション技術

  1. 産業技術総合研究所
  2. 金沢大学
  3. 警察・検察
  1. 生体組織特性値の計測システムの開発
  2. 生体力学シミュレーション技術の開発
  3. 捜査協力依頼者

因果構造分析にもとづく意図的傷害診断支援ソフトウェア

プロジェクト・ミーティングの様子(小児科医師、法医学、Aiセンター、工学者、心理学者が集まり虐待の事例検討会を実施) 

  1. 産業技術総合研究所
    1. 因果構造分析に基づく意図的傷害診断支援
      ソフトウェアの開発
  2. 児童相談所(大阪・神奈川)
    1. 意図的傷害診断支援ソフトウェアのユーザ

成果の社会での活用・普及に向けた将来構想

本プロジェクト期間中に、児童相談所や医療機関で運用可能な虐待データ蓄積・診断ソフトウェアを開発し、連携体制を組んでいる地区での継続的運用を目指す。本プロジェクト終了後、子どもの傷害予防工学カウンシル(CIPEC)が中心となり、大阪と神奈川の地区における虐待データを蓄積・共有するメリットや科学的な虐待診断の可能性を示すことで、他の地区への水平展開を図る。その際、虐待予防のための傷害データ共有ネットワークを整備する。また、参加機関が増えると、大規模な虐待データが蓄積可能となるが、それらを分析する傷害予防工学研究のコミュニティも育成する。将来的には、児童相談所や医療機関だけでなく、警察、検察も極めて重要ステークホルダーであるので、捜査協力を通じた実績を蓄積しながら連携を図っていく。

プロジェクト実施者・関与者(リンク)

【プロジェクト実施者】

【プロジェクトに協力する関与者】