発達障害や知的障害のある子どもは、成長するなかでいじめや虐待などの被害にあいやすく、それが原因で非行や犯罪などにはしってしまうことがあるといわれています。一般の青年と非行少年の犯罪被害や虐待体験を調べたところ、非行少年のほうが経験数が明らかに多く、怒りの感情も強いことから、虐待などの被害が非行に影響することもわかっています(図1)。また、子どもが犯罪をおかした後に地域に戻るための受け皿がとぼしく、再犯をくり返す事例も多く見られます。
 そこで、発達障害などのある子どもを対象にした、被害をふせぎ非行や犯罪を予防する教育プログラムと、子どもを支える家庭や地域の大人向けプログラムを開発し、地域で子どもをサポートするシステムづくりに取り組みました。

 各種相談機関や愛知県弁護士会の協力を得て違法な行為をした子どもとその家族のための相談窓口を開き、相談内容に合わせた支援活動や支援ニーズの聞き取りをしました。家族や児童自立支援施設などの指導員からは、障害の影響で子どもが感情のコントロール方法や社会のルールなどを正しく身につけられていないなどの声が寄せられ、子どもへの支援が不十分な現状が明らかになりました。
 これらの知見や、児童自立支援施設にいる障害のある子どもへの調査などをもとに、再犯防止を支援するプログラムを開発しました。プログラムは「上手に頼もう」「怒りのコントロール」などの題材でロールプレイを行い、振り返りによって学習を定着させ、正しいやり方を身につけてもらうというものです。プログラムを相談窓口や施設で実施したところ、子どもの自尊感情や人と関わる力、感情のコントロール力などがアップしたことがわかりました(図2)。

 大人向けプログラムとしては、出所後の立ち直りをボランティアで支援する保護司を対象に、障害への理解や対応などを学ぶ研修を各地で行いました。また、学校や施設などの教職員を対象としたプログラムも開発しました。  これらによって障害を持つ子どもへの理解や教育が進み、子どもや家族に合った適切な支援が受けられることを目指して、相談窓口では子どもの状態を診断し、医療機関・弁護士・地域のNPOなどの関係機関につなぐことで、地域でサポートが得られるしくみも考えました。
 今後は子ども向け再犯防止プログラムを改良し、違法行為をしていない子どもも対象にして被害・加害の防止を支援していくなど、成果を広く社会で活用していく予定です。

代表者・グループリーダー
■辻井 正次:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 客員教授/中京大学現代社会学部 教授
■杉山 登志郎:浜松医科大学児童青年期精神医学講座 教授
■堀尾 良弘:愛知県立大学教育福祉学部 准教授
■笹竹 英穂:至学館大学健康科学部 教授
■村上 隆:中京大学大学院社会学研究科 教授

主な実施者
■土屋 賢治:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 准教授 ■宮地 泰士:あけぼの学園 教員
■河合 里美:国立病院機構天竜病院 医師 ■大西 彩子:甲南大学文学部 講師
■望月 直人:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教 
■瀬野 由衣:愛知県立大学教育福祉学部 講師
■村木 紘子:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■林 陽子:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 非常勤講師
■染木 史緒:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■高柳 伸哉:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■野田 航:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■田中 尚樹:NPO法人アスペ・エルデの会 事務局長
■石川 道子:NPO法人アスペ・エルデの会 理事・小児科医
■大嶽 さと子:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■中村 和彦:浜松医科大学 准教授 ■鈴木 勝昭:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 准教授
■中島 俊思:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■加藤 志保:あいち小児保健医療総合センター心療科 医師
■山村 淳一:浜松医科大学児童青年期精神医学講座 助教
■野村 和代:浜松医科大学児童青年期精神医学講座 助教
■吉川 徹:名古屋大学医学部付属病院親と子どもの心療科 助教
■大西 将史:福井大学地域教育科学部 准教授
■松本 かおり:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■重松 紗知:愛知県立大学大学院人間発達学研究 大学院生
■茶谷 まど佳:愛知県立大学大学院人間発達学研究 大学院生
■藤田 知加子:南山大学心理人間学科 准教授 
■須田 史朗:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教
■宮地 菜穂子:中京大学大学院社会学研究科 大学院生
■武井 教使:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 教授
■谷 伊織:東海学園大学人文学部 講師 ■伊藤 大幸:浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 助教

 ※所属・役職は、参加終了時のもの。詳しくは研究開発実施終了報告書を参照。

【論文】

■林 陽子,吉橋 由香,田倉 さやか,辻井 正(2010)高機能広汎性発達障害児を対象とした完全主義対応プログラム作成の試み,小児の精神と神経,50(4),407-417.

■望月 直人(2010)対応困難とされる広汎性発達障害についての研究動向―知的障害を伴わない広汎性発達障害児者の問題行動を中心に―,心理学叢誌(関西大学大学院心理学研究科),第4号.

■林 陽子,辻井 正次(2010)子どもたちの「できること」を伸ばす--発達障害のある子どものスキル・トレーニング実践(4)自分の気持ちを知る―感情理解スキルの基礎―,こころの科学,149, 136-141.

■中島 俊思,田ノ岡 志保,岩崎 美佳,重富 彩香,大西 将史,辻井 正次(2010)広汎性発達障害児を対象にしたソーシャルスキルトレーニング, 双方向コミュニケーションプログラムの実施と効果の検討,小児の精神と神経,50(4),454-455.

■岡田 涼,谷 伊織,大西 将史,中島 俊思,宮地 泰士,藤田 知加子,望月 直人,大西 彩子,松岡 弥玲,辻井 正次(2010)中学生における自傷行為の経験率―単一市内における全数調査から―,精神医学, 52(12), 1209-1212.

■望月 直人,岡田 涼,谷 伊織,大西 将史,辻井 正次(2011)中学生における非行行為の経験率―単一市内における全数調査から―,精神医学, 53(7), 667-670.

■村上 隆(2011)特別な構造をもつ2値データの相関行列の性質について,中京大学現代社会学部紀要,5,No.1,107-124.

■辻井 正次(2011)子どもたちの「できること」を伸ばす―発達障害のある子どものスキル・トレーニング実践(12・最終回)楽しい生活のために必要なこと,こころの科学,157,116-121.

■辻井 正次・中島 俊思(2011)発達障害児支援のためのペアレントトレーニング(1)―ペアレントトレーニングの意義と理念―,月刊地域保健,42(1),66-70.

■辻井 正次・望月 直人(2011)発達障害児支援のためのペアレントトレーニング(2)―ペアレントトレーニングの実際―,月刊地域保健,42(2),70-75.

■辻井 正次・中島 俊思・望月 直人(2011)発達障害児支援のためのペアレントトレーニング(3)―地域のネットワークや受け皿に橋渡ししていくために―,月刊地域保健,42(3),60-64.

■杉山 登志郎(2011)発達障害とアタッチメント障害 (特集 施設保護を受けた子のトラウマ) ,日本トラウマティック・ストレス学会誌, 9(1), 25-31.

■杉山 登志郎(2011)子ども虐待と子どもの発達 (特集 子どもの虐待と脳の発達), 子どものこころと脳の発達, 2(1), 5-13.

■杉山 登志郎(2011)子ども虐待と精神医学,日本児童青年精神医学会機関誌, 52(3), 250-263.

■杉山登志郎(2011)性的虐待の実態とケア (特集 性的虐待) ,子どもの虐待とネグレクト,13(2), 209-215.

■髙柳 伸哉(2011)総説『海外の自閉症スペクトラム障害への怒りと不安対応CBT研究のレビュー』,NPO法人アスペ・エルデの会機関紙 アスペハート, 29, 8-12.

■Kawakami, C., Ohnishi, M., Sugiyama, T., Someki, F., Nakamura, K., Tsujii M.(2012). The risk factors for criminal behaviour in high-functioning autism spectrum disorders (HFASDs): A comparison of childhood adversities between individuals with HFASDs who exhibit criminal behaviour and those with HFASD and no criminal histories, Research in Autism Spectrum Disorders, 949-957.

■望月 直人(2012)自閉症スペクトラム障害の不安のコントロールプログラム』「自己の感情理解から不安への対処につなげる―日間賀島合宿での実践より―,NPO法人アスペ・エルデの会機関紙 アスペハート, 29.

■杉山 登志郎(2012)発達障害と虐待はトラウマ(心的外傷)でつながっている (特集 発達障害と虐待の重なりをどう見るか),月刊地域保健, 43(2), 42-45.

■髙柳 伸哉,伊藤 大幸,岡田 涼,中島 俊思,大西 将史,染木 史緒,野田 航,谷 伊織,林 陽子,辻井 正次(2012)一般中学生における自傷行為のリスク要因―単一市内前項調査に基づく検討―,臨床精神医学, 41(1), 87-95.

■髙柳 伸哉,伊藤 大幸,大嶽 さと子,野田 航,大西 将史,中島 俊思,望月 直人,染木 史緒,辻井 正次(2012)小中学生における欠席行動と抑うつ、攻撃性との関連,臨床精神医学, 41(7), 925-932.

■Murakami, T. (2012)A geometrical interpretation of the horseshoe effect in multiple correspondence analysis of binary data. In W. Gaul, A. Geyer-Schulz, L. Schmidt-Thieme, and J. Kunze (eds.) Challenges at the interface of data analysis, computer science, and optimization. Springer, 101-108.

■大嶽 さと子,伊藤 大幸,染木 史緒,野田 航,林 陽子,中島 俊思,高柳 伸哉,瀬野 由衣,岡田 涼,辻井 正次(2012)一般中学生における自傷行為の経験および頻度と抑うつの関連―単一市内全校調査に基づく検討―,精神医学 54(7), 673-680.

【その他】

■2011年,足立 浩平,村上 隆,非計量多変量解析法 主成分分析から多重対応分析へ,朝倉書店.

■2012年,辻井 正次,アスぺ・エルデの会(編),楽しい毎日を送るためのスキル―発達障害ある子のステップアップ・トレーニング,日本評論社.